●「観測」に関するもっとも常識的な見方は、「観測」を観測される量子系と測定装置との相互作用とみる立場でしょう。
●光子の二重スリット実験の場合、1個の光子が、波として2つのスリットを通過し、先にあるスクリーン上の1個のハロゲン化銀の原子と相互作用をし、1個のハロゲン化銀原子に化学変化を引き起こします。
●この場合、「観測」とは、光子がスクリーン上の物質と化学反応をすることによって、波動の状態(重ね合わせの状態)が消え、粒子的性質が現れるという物理プロセスとして説明することができます。
●なお、このように解したとしても、波の性質を持っていた光子がどうして粒子としてハロゲン化銀と化学反応したのかという問題は残ります。
【デコヒーレンス】
●ところで、量子系と測定装置との相互作用は、量子コンピュータや量子通信の分野では、デコヒーレンス(decoherence)という概念で説明されています。デコヒーレンスとは、量子力学的な重ね合わせ状態にある量子系が、周囲の環境(熱、光、磁場など)と相互作用することで、その量子的な干渉性を失い、古典的な混合状態へ移行することを言います。量子コンピュータや量子通信では、量子状態が保たれることが重要なので、これを破壊する原因をノイズとして理解するのです。
●なお、デコヒーレンスの考え方では、干渉性が失われる点に着目するので、干渉性が失われた状態を「混合状態」と言うだけで、ここで問題としている「波束の収縮」については何も説明されません。
【量子の監視】
●ところで、二重スリット実験において、どちらのスリットを通過したのかを検知する機器を置くと、観測スクリーンにはもはや干渉縞は現れません。観測したことによって、量子は波動の性質を失うのです。
●たとえば、電子銃から、電子を2つのスリットの空いた板を通過させて、その先の観測スクリーンで観測する装置をセットします。その上で、スリットの真裏に強力な光源をセットして、電子がどちらのスリットを通過したのか観測できるようにします。このような装置をセットすると、電子がどちらのスリットを通過したのかは分かりますが、もはや観測スクリーンには電子の干渉縞は現れません。
●この場合、「観測」とは何でしょうか。電子は観測スクリーンにまで到達しているのですから、この「監視」は電子と光子との化学反応とは言えません。しかし、電子と光源(測定装置)との「相互作用」とは言えるでしょう。