●物質の局所実在性を信じていたアインシュタイン(1879-1955)は、量子力学の一般的解釈(量子は観測がなされるまでは非局所的であるという解釈)の不完全性を証明しようとして、1935年に、ひとつの論文を発表しました。この問題提起は、ポドルスキー、ローゼンという若い共同研究者と共になされましたので、「EPRのパラドックス」と呼ばれています。
*A. Einstein, B. Podolsky, and N. Rosen, Can Quantum-Mechanical Description of Physical Reality Be Considered Complete?,Physical Review. 47 (10): 777–780.
●この論文の独創性は、量子間の「相関」に着目することによって、量子力学から導かれる奇妙な結論を指摘した点です。この点を、「スピン」と呼ばれる性質で説明したいと思います。
●量子には、スピン(スピン角運動量)という性質があります。これは物質の磁性の起源になるものですが、スピンがいかなるものかについては専門書を参照してください。さしあたってここでは、スピンとは、コマの自転のようなもので、「上向き」と「下向き」とがあると考えてください。
●スピンがゼロである1個の分子が、2つの原子A、原子Bに分かれて、まったく逆方向に運動していくとします。分かれた原子はスピンをもち、一方が上向きなら、もう一方は下向きになります。もともとの分子のスピンがゼロですので、そこから放出される相関する原子についても、両方の状態を合わせるとゼロになるのです。相関が認められる量子間では、スピンのみならず、位置、運動量、偏光など、どれを測定しても相互に関連します。
●さて、量子力学の一般的解釈によれば、原子Aと原子Bがどの方向にスピンしているかは、観測を行うまでは決まっていません。観測を行うまで、量子は、波の状態(非局所性、重ね合わせの状態)にあります。そして、原子Aを観測したところ、上向きにスピンしていたならば、その瞬間に原子Bは下向きにスピンしていることになります。この現象が「量子もつれ」です。
●しかし、こうした量子力学の予言は、まったく別の場所にある2つの原子が観測行為によって相互に関係を持つということを示しています。観測行為が物質の状態に影響を与えるということを信じないアインシュタインは、「もしも一定の時間、2つの系がお互いに力学的に隔離していれば、一方の系に対する測定が他方の系に対して実際に影響を与えること」はないと考えました。量子力学によればそうした相関があることになりますが、アインシュタインは、それを皮肉交じりに「幽霊のような遠隔操作」と呼び、認めようとはしませんでした。